詐欺グループのアジト、女装クラブ、闇クリニック、殺人現場…。原盤屋の送り状の住所をたどってみた先は社会の闇への入り口だった!

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詐欺グループのアジト、女装クラブ、闇クリニック、殺人現場…。原盤屋の送り状の住所をたどってみた先は社会の闇への入り口だった!

絶対おもしろい特選コラム

アングラ

なかぞの 0 1,497 2021/12/17
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前回のコラム(『―消えゆく怪しい街並み―「かんなみ新地」の消滅と、その周辺の話。』)の中で、店舗型の原盤屋が一斉摘発された話について少し触れました。

また、つい先日の12月10日には、中国人の男がマンションの一室で在留カードを偽造していた容疑で逮捕されたというニュースもありました。男はSNSで作業員を募集し、大阪市、東大阪市、埼玉県川口市の計3か所で偽造在留カードを製造していたといいます。住宅街にあるごく普通のマンションの一室でこのような犯罪がおこなわれていたわけです。

これらのニュースを受けて、今回は、私が独自に調査した、原盤屋が入居するビルについてのレポートをご紹介してみたいと思います。

※原盤屋とは、無修正のものや違法にコピーしたわいせつDVDを販売する業者のことをいいます。

宅配便の送り状

数年前、ネット通販をしている原盤屋で無修正のDVDを購入する機会があった。宅配便の送り状の住所を見ると、「大阪市中央区※※※」となっていた。

私が何度か利用したことのあるイメクラ店があるあたりで、大阪ミナミエリアの中心街からほど近い場所に、その原盤屋が事務所を構えていることがわかった。

送り主は個人名になっていたが、おそらく架空の人物名を使っているのだろうと思う。というのも、その原盤屋をその後も何度か利用したところ、そのたびに送り主の名前は違うのだが、なぜかいつも決まって「ヤマダ」とか「ヤマキ」「ヤマモト」といった「ヤマ」が付く苗字ばかりだったのだ。

さらに、送り状の隅のほうに添付されたシールを見ると、発送元が岡山県内の郵便局になっていた。注文を受ける事務所は大阪市内にあっても、商品のダビングや在庫のストック、梱包・発送作業などをおこなう場所は岡山県内にあるということなのだろう。

違法、合法にかかわらず、通信販売では事務所と倉庫を分けていることはよくあるが、違法な商売をしている原盤屋ならなおさら、警察に踏み込まれた際に足が付かないよう用心しているのかもしれない。

送り状の住所にあったビルを調査してみた

宅配便の送り状を見ただけでも、いかにも怪しげな商売をしている雰囲気が伝わってくる原盤屋。怪しげなものを見つけるのが大好きな私はつい興味をそそられ、その送り状に書かれた住所をたどってみることにしたのだった。

しかしその後、未曽有のコロナ騒ぎを受けて調査は中断。ようやく再開できたのは、2021年の秋口のことだった。

その住所にあったのは、七階建ての古い雑居ビルだった。部屋数も多くはなさそうで、これといって特徴のある物件ではなかった。一階には麻雀店の看板が出ていたが、私が訪れた平日の昼間、そこにはシャッターが降りていた。

大阪メトロの「なんば駅」からほど近い場所で、東側には専門学校の大きなビルが建ち並び、往来には若い学生たちの姿が目立ついっぽうで、通りを西へ歩けば昔ながらの面影が残る飲み屋街へと続き、ラブホテルや風俗店、小さな居酒屋などが軒を連ねている雑多な雰囲気の一角だった。

こんな人通りの多い場所に原盤屋が事務所を構ていることに、私は少し拍子抜けしてしまった。駅裏の人通りの少ないさびれた場所や、住宅街のはずれでひっそり営業しているイメージがあったからだ。

私はさっそくビルの中の様子を覗いてみることにした。エレベーターはなく、細くて急な階段があるだけだった。一階や二階ならともかく、大きな事務用品などを上のほうの階まで運び入れるのは大変だろうと思った。

階段の上り口の壁に郵便受けが備え付けてあった。一階の麻雀店のところには個人名が挙がっていた。最上階に美容クリニックが入っていることがわかったのだが、開業するとき、医療機器をどうやって運び入れたのだろうと考えた。この狭い階段を使って運搬するのは難しいはずだ。クレーンで釣り上げて窓から運び入れたのだろうか。

ほとんど表札が出ていない中にひとつ、「○○フォトスタジオ」と黒インクで手書きされたポストがあった。301号室だった。なんとなく気になった私は、まず最初にその部屋へ行ってみようと思い、急な階段を上がって行った。

女装趣味の男性

三階へ着くと、「○○フォトスタジオ」と書かれたプレートのあるドアから、ちょうど男性が出てくるところだった。色白で細身の、おとなしそうな感じの若者だった。見ようによってはオタクっぽい雰囲気もなくはなかった。大きめのトートバッグを肩から提げていた。私と目が合うと、若者がマスク越しに一瞬、笑いかけてきたように見えた。そのあと軽く会釈をして通り過ぎて行った。

その若者と入れ替わりに、ひとりの男性が階段を上がってきて、301号室のインターホンを押した。40代後半から50代前半くらいの年恰好で、小太りの体型だった。私が階段の踊り場の陰から見ていると、ドアが少し開いて若い女性が顔を出した。女性が小声で何か話しかけ、中年の男性を部屋に招き入れた。

撮影会でもやっているのだろうか。私は思った。地下アイドルやマイナーなグラビアモデルなんかが、マンションの一室を使って撮影会を開くことはよくある。事務所主催で、ファンの男性を集めて行うこともあれば、SNSなどを通じて個人間でやり取りし、1対1での撮影が行われることもあると聞く。

けっこうきわどいことをやってるのかもしれないなぁ…。そう思った私は、その場でスマホを取り出して「○○フォトスタジオ」で検索してみたのだが、まったくヒットせず、それどころか、そのビルに関する情報は、ローカルの不動産屋のサイトと、最上階に入っている美容クリニックのサイトしか出てこなかった。

「○○フォトスタジオ」だけでなく、このビル全体に対してますます興味が湧いてきた私は、その足で、知り合いの女装家のもとを訪ねてみることにした。彼(彼女?)なら何か知っているのではないかと思ったのだ。


「タイミングわるいなぁ、もぉ。なんでいきなり来んねん。電話くらいしてこいや」


朱美さん(仮名)は寝ていたところを起こされてご立腹の様子だったが、しぶしぶ私を部屋に入れてくれた。部屋の中は綺麗に掃除されていた。壁際の棚には大量のCDやDVDが整然と収まっていて、その横にアコースティックギターが立て掛けてあった。鏡台の前には女性ものの化粧品や香水がたくさん並んでいたが、眠たそうな顔の彼の体からは、タバコの臭いと加齢臭がむんむんと漂ってきていた。

「ほんで、そのビルがどないしたんやて?」

タバコの煙に顔をしかめながら、朱美さんは面倒くさそうに聞いた。化粧もしておらず、無精ひげが伸びた朱美さんの顔には、年齢を感じさせるたくさんのシワやシミがあった。彼の実年齢を私は知らないが、彼と付き合いのあるスナックのママの話では、すでに60歳を超えているとかいないとか。

私は、原盤屋の住所をたどってそのビルにたどり着いたこと、「○○フォトスタジオ」と書かれた怪しい部屋を見つけたことなどを朱美さんに話した。

「ああ、あのスタジオなぁ。あれは女装クラブや。あたしみたいな趣味の男が〝おめかし〟して写真を撮ってもらうところ」

「じゃあ、新大阪にある、あのスタジオと同じような感じですか?」

新大阪駅の近くに、朱美さんの行きつけの写真スタジオがあるのは私も知っていた。

「まあ、似たようなもんなんやけど、難波のあのスタジオはもうちょっとディープな感じやなぁ」

朱美さんの話では、あのビルに入っている「○○フォトスタジオ」ではヌード撮影もおこなわれているのだとか。男性に乱暴され衣服を引き裂かれて素肌が露わになった女性を演じることで性的興奮を覚える女装家の男性や、自分の勃起したイチモツや射精するシーンを撮影してもらいたいという男性が、あのスタジオを訪れるのだという。

あのときドアの向こうから顔を出した若い女性は、写真家かあるいはスタッフのひとりだったのかもしれないなと、私は思った。

「あたしはそんな趣味ないから、あのスタジオには行けへんけどな」

そう吐き捨てるように言うと、朱美さんは吸っていたタバコを灰皿でもみ消し、また新しいタバコに火を点けた。

闇クリニック

朱美さんは何度かタバコを吹かしたあと、おもむろに口を開くと、こんなことを言い出した。

「あの辺に昔、闇クリニックがあったんや」

「闇クリニックですか?」

「そう。ニューハーフ専用の美容外科みたいなところなんやけどな。性転換手術とか、日本では認められてない医療行為をやってたらしいわ」

その手の話は私も聞いたことがあった。「美容○〇科」という科目名を標榜することがまだ認められていなかった1970年代、美容診療にたずさわる医師は、歓楽街のはずれやラブホテル街でひっそり開業していたという。その中には違法な医療行為をおこなう闇クリニックも存在し、朱美さんが言ったような性転換手術などがおこなわれていたと聞く。

現在でも、そういった闇クリニックは存在するらしい。やはりニューハーフの人たちが訪れることが多いそうで、その話は高須クリニックの高須幹弥先生も自身のYouTubeチャンネルの中で語っていた。

「あのビルの最上階にも美容クリニックが入ってますけど、あれは闇ではないんですか?」

「あれは違う。あれは普通の美容クリニック。あたしの知り合いも、あそこでヒアルロン酸注射をやってもらったことあるらしいわ」

朱美さんは「よっこいしょ」と言って立ち上がると、「お昼もう食べたん?」と聞いた。私がまだだと答えると、「焼きそば作ってあげるわ。食べていき」と言い、タバコをくわえたままキッチンへと向かった。

殺人現場

その日、自宅へ戻った私は、さらに深くあのビルのことを調べてみようと思い、ネットで色々と検索してみたが、やはりこれといった情報は出てこなかった。オープンソースからの情報収集が見込めないとなれば、またしても知人を頼るしかない。その週末、私はまず公務員時代の先輩に連絡をとってみた。

これまでにも私が書いた記事の中でたびたび登場した、三度の飯より中国エステが好きなその先輩に電話をかけ、例のビルや原盤屋のことを話して聞かせた。

「またそんなしょうもない探偵ごっこやってるんか?」

先輩はあきれたように溜め息を漏らすと、「わかった。協力したるから、そのかわりチャイエスの女の子との合コンを手配してくれ」と無茶な要求をしてきた。

「コロナ騒ぎの真っただ中に合コンですか?」

こんどは私のほうが溜め息をつくと、先輩は「コロナもカリナもあるかいっ!って、お前の知り合いに香里奈みたいなモデル系の女の子がおったやろ。あの子を誘ってくれ!」と、馬鹿でかい声で言うのだった。

「ああ、リンさんのことですか?」私が聞き返すと、「そうそうそうそう!あの子を連れてきてくれ!」とうれしそうにはしゃいでいた。私はだんだん面倒くさくなってきて、また近いうちに連絡しますと言って電話を切った。

先輩の他にも数人の知り合いに当たってみたが、これといった情報は得られず、難波のあたりをウロウロしていると、顔なじみの中国エステの店長に出会った。お互いに近況を報告し合ったあと、私はそれとなくあのビルのことを聞いてみたのだが、これが当たりだった。

「あのビルはけっこうヤバイいって聞いてますよ…」

声をひそめて話し始めた店長。聞くと、以前あのビルに事務所を構えていた男が麻薬の売人だったそうで、他の入居者とトラブルを起こして逮捕されたという。

「数年前には殺人事件もあったんですよ…」
「え、殺人ですか?」
「ええ。ぼくも詳しいことは知りませんけど、顔見知りによる犯行だったらしいです」

殺人と聞いて、私も正直驚きを隠せなかった。と同時に、自分が考えていた以上の曰く付き物件だったんだなと思い、内心ほくそ笑んだ。


それから十日ほど経って、例の先輩から電話がかかってきた。私に内緒であのビルのことを調べてくれていたのだった。

「いろいろわかったぞ。なかなかの曰く付きみたいやなぁ」

先輩が勤務する合同庁舎の食堂で落ち合うと、A4用紙にプリントアウトしたものを見せられた。そこには目を疑うような怪しげな情報がびっしりと書かれてあった。

「原盤屋はこの10年のあいだに何代も入れ替わってるんですねぇ…」
「そうや。どうせ元締めは同じ奴やろうけど、運営者が次々に入れ替わってるわけや」
「ビルの所有者もたびたび代わってますねぇ?」
「景気の悪化も一因やろうけど…そんな怪しいビルを買う奴いうたら、ろくな連中やあらへんわ。どうせ本業のほうでトラブって首が回らんようになったんやろ。一時は暴力団関係者の手に渡ったこともあったみたいや」

中国エステの店長が言っていた麻薬の売人の話はどこにも出てこなかったが、それよりも気になるワードがいくつかあった。

中でもとくに私の目を引いたのは、「振り込め詐欺」と「殺人」というワードだった。あのビルの四階にはかつて振り込め詐欺グループのアジトがあったようで、メンバーの半数以上がのちに逮捕されていた。

「殺人事件のことは他の人からも聞いて知ってました。顔見知りによる犯行だったんですよね?」
「そうそう。金銭トラブルが原因やったらしいわ。その事件は警察のホームページにも掲載されてたんやけど、ニュースにはならんかったみたいやなぁ」

そう言うと、先輩は食後のコーヒーをズズッと音を立ててすすった。

「このビル、呪われてますねぇ…」私が思わず口にすると、先輩は腕組みしたままチッと舌を鳴らし、「怪しい奴がおる場所には、次から次へと同じように怪しい奴が集まってくるんやろな…」と低い声でつぶやくように言った。

そういうものなのかなぁ…と思い、私は窓の外に目をやった。清々しい秋晴れの空の下に、大阪城の天守閣が遠くそびえていた。


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この記事を書いた人

なかぞの

大阪府生まれ。22歳で文芸同人誌に参加。文学・アート系雑誌での新人賞入選をきっかけに作家業をスタート。塾講師、酒屋の配達員、デリヘルの事務スタッフなど様々な職を転々としたのち、現在はフリーライターとして活動中。足を踏み入れるとスリルを味わえそうな怪しい街並み、怪しいビルの風俗店を探し歩いている。

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